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3月

はやり言葉辞典(2018/03/27)

『はやり言葉辞典』( )に「弱いロボット」の項目を加えていただきました! 次なるは、「目指せ広辞苑」です!

 

—  (オリジナルは、「ここ」に!)

弱いロボットとは

・ 弱いロボットとは、 岡田美智男教授(豊橋技術科学大学)が提唱する、脆弱性や不完全さを持ちつつも人間の手助けを引き出すことによって目的を達成するロボット。構造や機能が「シンプル」にデザインされている一方、人間とのあいだに「リッチ」な関係を築くことができるという。岡田教授の研究室で製作された弱いロボットのひとつ「ゴミ箱ロボット」(Sociable Trash Box)を紹介するTwitterユーザーの投稿が2018年3月に約10万回リツイートされ、多くの人が弱いロボットを知るきっかけとなった。

・ 「Sociable Trash Box」は、車輪のついたゴミ箱型ロボット。赤外線センサー、USBカメラ、スピーカーなどがついたシンプルな構造で、ゴミを拾うのに必要なアームなどを持たないものの、周囲の人間の協力によってゴミの回収という目的を達成することができる。他の弱いロボットと同様、「Sociable Trash Box」の中心部分にはバネが組み込まれており、それによって動きがヨタヨタと頼りなく見える。また、左右の車輪を交互に動かして移動するため、乳児が歩くような不安定さが演出されている。さらに「Sociable Trash Box」は自律動作機能を備えており、周囲の障害物との衝突を回避しながら移動したり、ゴミ箱にゴミが入れられるとお辞儀をしたりできる。このような「Sociable Trash Box」の動きを見て興味を持った人がゴミを拾い「Sociable Trash Box」の中へ入れることによって、ゴミの回収という目的が結果的に達成されるのである。

弱いロボットに込められた意図

・ 岡田教授の研究室「Interaction & Communication Design Lab. 」は、弱いロボットを「他者からのアシストを引き出しながら、合目的的な行為を関係論的に実現するソーシャルなロボット」と説明している。岡田教授によると、ロボットの「なんらかの意図を備え、合目的的に振る舞っている」様子は、周囲の人間から積極的な手助けを引き出す場合があるのだという。岡田教授は「ロボットの弱さ」が人からの手助けを生む例として「ルンバ」のような掃除ロボットを挙げている。

床に散らばったケーブル類を巻き込まないように束ねてあげる.(中略)ちょっと手間の掛かるロボットだなぁと思いつつも,思わず手伝ってしまうのである. (中略)本来,コードを巻き込んでギブアップしやすいというのは,改善すべき技術的な欠陥や欠点だろう.しかし,その〈弱さ〉は私達の積極的なアシストを引き出すうえで本質的な役割を果たしていた.

・ 岡田教授によると、以上のように「他力本願」な方略は、「他とのかかわりの中で合目的的な行為を組織していく」という意味で「関係論的な行為方略」と呼ばれる。そして、そのような方略において、「Sociable Trash Box」の動作は周囲の人間に「ゴミでも探そうとしているのだろうか」と気づかせ、「目の前のゴミを拾いたいのに拾えない」という弱さの開示は「共感的なアシスト」を引き出すのに重要なのだという。

弱いロボットを通して提起される問題

・ 弱いロボットには、岡田教授が抱える現代社会への問題意識が内包されている。

ロボットを新しく開発しようと言うと、大抵の場合、「●●してくれるロボット」というように特定の機能とか目的を想定してしまう。でも、そういうものに囲まれた生活って、本当に幸せなんでしょうか? 特定の目的で作られたモノは、ちょっと条件がズレてしまうと、途端に役に立たないゴミになってしまう。役に立つモノを作ろうとして、結果的に役に立たないゴミをたくさん生み出してしまっているのが、今の世の中ではないでしょうか

・ また、岡田教授によれば、何かを「してあげる人」と「してもらう人」のあいだに明確な線を引くと、人は物事への要求水準を際限なく上げてしまうのだという。たとえば「ルンバ」のような掃除ロボットとのあいだに線を引くことにより、人は「もっと静かに掃除しろ」「ホコリを取りこぼすな」など厳格な要求をするようになって寛容さを失う。このような図式が至るところで生じているという。

・ さらに、ロボットの自律化・高機能化にこだわりすぎて、ロボットと人とのあいだに垣根を作ると、たとえば介護ロボットの場合、人はロボットに介助されるのを待つだけとなり、「ロボットの采配の中で人が生かされている」痛々しい構図が生まれるという。そのような状況とは反対の、弱いロボットがもたらす「ロボットを支えつつも、そのロボットを支える者として価値づけられている」相互構成的な関係が、ロボットとの共生を考えていくうえで大切な要素になるのだと岡田教授は主張している。

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