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4月

Robot Watch(2009/4/21)

2009年3月14日、社団法人日本ロボット学会主催第39回ロボット工学セミナー「ロボット・インタラクション・テクノロジー 感性にうったえるロボットのつくり方とその活用」が独立行政法人産業技術総合研究所・臨海副都心センターで開かれた。感性ロボティクスやロボットセラピーに関する7件の講演が行なわれた。

(オリジナルな記事は、ここです。以下は、抜粋版です)

関係論的なロボティクスとその展開

豊橋技術科学大学知識情報工学系 岡田美智男教授

身体と環境が1つのシステムを作り、関係を支えつつ関係に支えられるようなロボットを作ることが目標だという豊橋技術科学大学知識情報工学系の岡田美智男教授は、「弱い存在」という視点でロボットをとらえたい、と講演を始めた。

最近はあまり作りこみすぎない弱い建築、ミニマルデザイン、便利すぎない装置が注目されている。これまでは1つのロボットが全てできてしまうという視点が多かったが、相互構成的な関係として成立する存在などをずっと考えてきたという。

相互構成的な関係とは何か。たとえば手のかかる子供ほどかわいいという言葉がある。草木に水をあげる。すると草木が生かされる。だが自分の存在も同時に価値づけられる。これが相互構成的な関係である。

多くのロボットが導入されても、スイッチが切られて飾られていることが多い。ロボットはこれまで自分で勝手に動くことを目指してきた。自律ロボットの研究である。ロボットは人間とはある意味無関係に成立しており、相互関係は成立していない。社会的存在としてロボットを扱おうとしても、ロボットにとっては、人間はあたりの石ころと同じように扱われる。だから人間も結果としてロボットを社会的存在として扱うことをやめ、スイッチを切ってしまう。「儀礼的無視」である。

乳児は、1人では何もできない。だが泣くことで母親からミルクをもらい、結果として自分の行きたいところに行く。家庭のなかで弱い存在なのだが、一番パワフルな存在でもある。自分は何1つできないのだが、他者のアシストをうまく引き出してしまう。社会的知性としてみると、これは面白い。

母親との関係のなかで能力を発揮するわけだが、では能力はどこにあるのか。どちらかに帰属させることはできない。母親と子供の間に分かち持たれていると考えられる。そのような「能力」を持ったロボットを関係論的なロボットと呼んで、岡田氏らは研究してきた。
 1人で何でもできるロボットではなく、誰かのアシストの中で行為が実現できて、将来は自分ひとりでもできるようなロボットの研究はなかなか行なわれてこなかった。岡田氏は逆に何もできない、手のかかるロボットを作ってきた。

最初は画面で動くエージェントを作ってみたが、それではなかなか心が動かされないと考え、実体を持ったロボットを作った。人間は相手がどちらを向いて何をしようとしているかという「志向性」に非常に敏感である。そこで、ロボットの志向性を表現しつつ、何も役には立たないが、居ないとさびしいようなロボットを目指した。

代表が「Muu」である。名前は中国語で目という意味で、外見は目が大きく体が丸い、という赤ちゃんの特性を持たせようとしたものだという。外見は京都造形美術大学の学生などとのコラボレーションも行ない、さまざまな取り組みをした。ロボットというより仮想的な生き物のようなものである。最近はゴミ箱ロボットなども作っているという。自分ではごみを拾えないが、他人にごみを拾ってもらって喜ぶ、というロボットである。

岡田氏は、実体ではなく関係としての同型性、引き算としてのデザインを重視してロボットデザインを行なってきた。実体としての意味をそぎ落としていくと関係のなかからたち現れる意味にシフトしていく、という。すると、周囲との関係に敏感になっていく。目玉だけのMuuが壁から顔を出していると、こっちをこっそりのぞきこんでいるように見える。

ロボットの形をデザインするのではなく周囲の関係をデザインしていくと面白いコミュニケーションロボットができるという。単体が無表情であっても、かかわりの中から表情が現れる。きっかけになっているのは「ピングー」のアニメで、このアニメでは意味のある言葉は言わない。だが子供たちはアニメの動きだけから意味を抽出していく。声のやりとりも意味をなさない音で構成されていても、会話のやりとりとして着地する。この研究はソニーのAIBOの発話にも取り入れられたという。

企業キャラクターのなかには唇をつけないなど、無表情であることを敢えて選んでいるものもある。ミニマルなデザインのなかから意味が逆に立ち上がることを選んでいるからだ。

岡田氏は、個体能力主義から抜け出して関係論的なロボットを作れないかと考えているという。自分で動けなくても誰かに動かしてもらえればいいし、ものをとれないのであれば他者にとってもらえればいい。表情が乏しくても解釈してもらえればいい。これが関係論的なロボットである。人とのかかわりを積極的に引き出す「弱さ」を持ったロボットだ。

また自閉症児は人間を避けてしまう傾向があるが、Muuとの親和性は非常に高いという。いまはロボットによって社会的葛藤が生まれた場合、自閉症児がどうふるまうかといった検討を行なっている。

お互いに生かされる互恵性 現在のロボットとは相互作用が成立していない 【動画】Talking Eye。岡田氏の初期の研究の1つ

 

コムソウ君。穴のなかにはカメラがある 【動画】外装を変えたMuuの1つ 関係の中から立ち現れる意味

 

Muuを使って自閉症児の研究も行なっている 関係論的ロボティクスとは
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