私たちは大地の上を歩くと同時に、大地が私たちを歩かせている。一度、そうした視点から私たちの身の回りのことを見渡してみるのも面白い。
 街の中をなにげなく歩く時に、「街を歩いているのは、この私だ」と自分を中心に考えてしまいがちだけれど、その歩道や街の看板、駅に向かう人の流れは、私たちの歩くという行為を制約し方向づける。その意味で、なにげない一歩とそれを支える大地や街並みとが一緒になって「歩行」という行為を生みだしているといえる。
 これは「歩く」という行為に限られない。人前で何かを話そうとするとき、その相手が無表情なときには、とても話し難いということがある。なにげなく言葉を繰り出そうとするとき、その相手は私たちの発話が向かう対象であると同時に、私たちの発話の内容を制約し方向づける。つまり、その聞き手のうなずきや視線の動きに支えらながら、一緒になって発話を生みだしているといえる。
 これまでの発話生成システムや音声合成システムの場合はどうだろう。スイッチをオンにすると、そのスピーカからは確かに合成音は聞こえてくる。しかし、その合成音は「宛名」を伴ったものではない。その意味で、これまでのテキストの読み上げソフトなどでは、「宛名のない合成音」の聴取を一方的に強いてきたともいえるだろう。
Talking-Ally

 Talking-Allyは、話し手として一方的に発話を繰り出すだけではなく、聞き手の存在を予定しつつ、その聞き手との相互行為的調整に基づいて発話の組織化を行う発話生成システムである。
 「あのね、きょうね、がっこうでね、ねっ、きいてる?」、学校から帰ってきたばかりの子どもが、お母さんに今日の出来事を語って聞かせるように、聞き手の「聞き手性」に支えられ、言い淀みや言い直しを伴いながら、発話を重ねていく。
 この相手の表情を気にしながら、言葉を1つ1つ選ぶ姿は、なにか臆病そうで、弱々しくもある。しかし、高齢者や障害者などを相手にするとき、それは優しさを伴う発話生成システムとなる。
 また、聞き手に対する宛名性や相互行為的な調整を含む発話は、聞き手からの「志向的な構え」を引き出す可能性がある。この発話のリアリティや「説得性」を増すことができれば、発話生成システムの応用領域のさらなる広がりが期待できる。
互いに調整し合いながら生み出される発話



システムの構成
Talking-Ally

 Talking-Allyは、積み木をモチーフとした、柔らかいシンプルなデザインとした。サーボモータ(4自由度)により、うなずき、否定、視線の移動など、志向性の表示、社会的な表示を行うシンプルな機構を実現している。
 聞き手の「聞き手性」に関する手掛かりの検出は、face-LAB (Seeing Machine社)を用い、眼球運動データ(注視点)、頭部の位置・回転データに基づいて行っている。また、発話の組織化においては、相手の「聞き手性」を手掛かりに、発話開始要素(turn initials)、発話断片のモダリティ、いい直し(restart)などを動的に選択している。
システムの構成

発表論文等

論文

              
  • Naoki Ohshima , Yasuke Ohyama, Yuki Odahara, P. Ravindra S. De Silva, and Michio Okada: Talking-Ally: The Influence of Robot Utterance Generation Mechanism on Hearer Behaviors, International Journal of Social Robotics (2014)
  •               
 

国際会議

  • Yuki Odahara, Naoki Ohshima, P. Ravindra S. De Silva, and Michio Okada: Talking Ally: Toward Persuasive Communication in Everyday Life, Proc. of The 15th International Conference on Human-Computer Interaction (HCII 2013), Part II, pp. 394-403, Nevada, USA, 21 - 26 July (2013).
  • Naoki Ohshima, Yusuke Ohyama, Yuki Odahara, P. Ravindra S. De Silva and Michio Okada: Talking-Ally: Intended Persuasiveness by the Utilizing Hearership and Addressivity, Proc. of The fourth International Conference on Social Robotics (ICSR2012), pp. 317-326, October 29-31, Chengdu, China (2012).

全国大会・シンポジウム等の予稿集

  • 蔵田 洋平, 松下 仁美, 新保 智喝, P.Ravindra De Silva, 岡田 美智男: Talking-Ally:発話において志向性の表示が聞き手に与える影響について, ヒューマンインタフェースシンポジウム2014 DVD-ROM論文集, pp. 624-627 (2014/9/9-12).
  • 松下 仁美, 蔵田 洋平, 新保 智喝, P.Ravindra De Silva, 岡田美智男: Talking-Ally:聞き手性に配慮した発話に備わる説得性について, ヒューマンインタフェースシンポジウム2014 DVD-ROM論文集, pp. 77-82 (2014/9/9-12).
  • 小田原雄紀,蔵田洋平,松下仁美,大島直樹,P. Ravindra S. De Silva, 岡田美智男: Talking-Ally: 聞き手性と宛名性に配慮した発話生成システムについて, Human-Agent Interaction シンポジウム 2013 (HAI-2013) 論文集, I-3 (2013/12/7-8, 岐阜大学 駅前サテライトキャンパス).
  • 蔵田洋平,小田原 雄紀,松下仁美,大島直樹,P.Ravindra S. De Silva,岡田美智男: Talking-Allyにおける宛名性の表示機構について, Human-Agent Interaction シンポジウム 2013 (HAI-2013) 論文集, P8 (2013/12/7-8, 岐阜大学 駅前サテライトキャンパス).
  • 山際康貴,上原孝紀,蔵田洋平,大島直樹,P. Ravindra De Silva,岡田美智男: Talking-Ally: 多人数会話に基づくソーシャルインタフェースにおける身体配置の調整について, Human-Agent Interaction シンポジウム 2013 (HAI-2013) 論文集, P7 (2013/12/7-8, 岐阜大学 駅前サテライトキャンパス).
  • 蔵田洋平, 小田原雄紀, 松下仁美, 大島直樹, デシルバラビンドラ, 岡田美智男: Talking-Ally:聞き手性と宛名性に配慮した発話生成システム実現にむけて, ヒューマンインタフェースシンポジウム2013 DVD-ROM論文集, pp. 511-514 (2013/9/10-13).
  • 小田原雄紀,蔵田洋平,大島直樹,P.Ravindra S. De Silva,岡田美智男:Talking-Ally: 聞き手性をリソースとする発話生成系の実現にむけて,Human-Agent Interaction シンポジウム 2012 (HAI-2012) 論文集,2E-2 (2012/12/7-9,京都工芸繊維大学60周年記念館).
  • 蔵田洋平,小田原雄紀,大島直樹,デシルバラビンドラ,岡田美智男:Talking-Ally:聞き手と一緒に発話を組織する発話生成系の研究,平成24年度電気関係学会東海支部連合大会講演論文集,D1-6 (2012/9/24-25).
  • 小田原雄紀,蔵田洋平,大島直樹,デシルバラビンドラ,岡田美智男:Talking-Ally:聞き手と一緒に発話を組織する発話生成システムについて,ヒューマンインタフェースシンポジウム2012論文集,1411L,pp. 161-166 (2012/9/4-7, 九州大学).
  • 大山雄佑,石川剛央,巽孝介,P. Ravindra De Silva,岡田美智男:聞き手の「聞き手性」をリソースとする発話のデザインについて,ヒューマンインタフェースシンポジウム2011論文集,pp.661-664, (2011/9/13-16, 仙台国際センター).

受賞歴

                        
  • HAI-2012 Outstanding Research Award 最優秀賞(小田原雄紀,蔵田洋平,大島直樹,P.Ravindra S. De Silva,岡田美智男:Talking-Ally: 聞き手性をリソースとする発話生成系の実現にむけて,Human-Agent Interaction シンポジウム 2012 (HAI-2012) 論文集,2E-2 (2012/12/7-9)).
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